K型熱電対とたわむれる

mgw

2010年11月25日 00:20

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たまに秋月電子で買い物をするのですが、送料・代引手数料を考えると余計なものを買ってしまうクセがあります。あと、安いのもその行動を加速させてくれます。

そんなわけで、ちょっと前に面白半分で買ったK型熱電対で簡単で中途半端な温度計を作ってみました。





(写真に写っているソケットはK型熱電対には付いていません、念のため)


その前に注意事項
K型熱電対を使って工作するというのが目的ですので、ここで作る温度計でまともな測定はできませんのであしからず。また、あまりアナログ回路に詳しくない技術屋ですので間違いがあるかもしれませんがご了承を。



K型熱電対ってなに?

K型熱電対を簡単に説明すると、温度差に応じて40.7μV/℃の電圧が発生するデバイスです。温度差というのがちょっとクセモノで、例えば30℃になったからといって30*40.7=1221μVといった絶対的な電圧が発生するわけではありません。あくまで、どこかと比べて30℃の温度差があったら+1221μVの電圧が発生する、ということです。

ではどこと比べるかといいますと、コネクタ部分です。ですので、ここが何度になっているのか知らないと温度が測れません。

そんなわけで、K型熱電対単体では絶対的な温度は測定できないわけですね。そこで、温度に応じて絶対的な電圧を出力する温度センサと組み合わせます。

と、知ったかぶりな解説してみましたが、実は購入したパーツに解説された紙が付いているんですけどね。

ただ、その解説にはS8100Bという温度センサが用いられていますが、これが手元にありません。代わりにLM61BIZというC-MOS温度センサはあります。何をやっているかさえわかれば代用できます。

S8100Bは-8mV/℃の特性をもっているので、これを0.0051倍して-40.7μV/℃になるように抵抗で分圧し、それでK型熱電対の+側をバイアスしているようです。プラスとマイナスを逆に使うのもミソですね。

ではLM61BIZではどうなるかといいますと、このデバイスは10mV/℃という特性を持っていますので、これを0.0041倍することで40.7μV/℃になり、それでK型熱電対のマイナス側をバイアスすればよいです。


表示はどうするの?

これで温度補償ができますが、表示方法を考えなくてはいけません。目的が目的ですので、あまり大掛かりなことはやりたくないので、とりあえずテスターを使うことにしました。

とはいっても、少しは人間が見やすいようにしたいですね。そんなわけで、オペアンプを使って40.7μV/℃を1mV/℃にすることにします。単に24.57倍のゲインを持たせればよいだけです。

こうすれば、テスタで測定した電圧から一定値を引き算すれば温度が得られます。

大雑把な回路図はこんな感じです。電源は省略していますが、必要に応じてパスコンなど追加します。分圧抵抗やオペアンプのゲイン設定は精度のキモになりますので多回転のトリマを使用します。抵抗値は手元にあって使えそうなものがこれだっただけで、適切かどうかは別問題です。






工作完了

製作過程は至って普通ですので割愛。このような姿になりました。





工夫した点はK型熱電対のソケットですかね(それかよ! という気もしますが)。専用品をwebであさると1500円とかするようで、送料まで考えると買う気になりません。代用できるものを考えたら平型コネクタを思いつき、沖縄電子で100円ちょっとで購入してきました。

そのコネクタをドライバで大きさ調整し、両面基板にハンダ付けしています。片面基板だと抜き差しの繰り返しでランドがはがれるかもしれません。

あと、トリマはもちろん温度センサもピンソケットに実装します。これをトリマに置き換えて回路を調整するからです。

電源は単三電池4本です。

基板の裏面は恥ずかしいのでお見せできませんw


調整

調整するのは2つのトリマです。1つは0.0041倍の分圧、もうひとつは24.57倍のゲイン設定です。K型熱電対は取り外した状態で調整します。

まずはC-MOS温度センサを外して別途トリマをつけると、ちょうど良い具合にトリマの中点から電源電圧を分圧した電圧が出ます。これをぐりぐりまわすことでK型熱電対に与えるバイアスを自由に設定することができます。これをダミートリマとでも呼びましょう。

ダミートリマが作る電圧を0.0041倍した電圧がK型熱電対のマイナス端子に出力できているかをテスタで確認します。

これが終わったら、オペアンプのゲインを設定するトリマを外し、ゲインが24.57倍になるように抵抗値を調整します。ここ、とても重要です。これを間違うと大きな誤差を生み出すのは当然ですが、実測でこれを調整するのが大変なのです。


この調整が終わったら、K型熱電対の2つのソケットを電線でショートさせ、0.0041倍された電圧がオペアンプに入力されるようにします。

ところで、温度センサの分圧とオペアンプのゲインの合計値は0.1倍になっています。つまり、ダミートリマが作った電圧を0.1倍した値がオペアンプから出ていれば良いのですが…


残念ながらそんな簡単にはいきません

というのも、オペアンプには入力オフセット電圧というのが存在し、これが悪さしているのです。大雑把に数式化すると、Vo = g * (Vi + C)となります(Vo:出力電圧, g:ゲイン, Vi:入力電圧, C:オフセット)。

gはトリマで調整できますが、直接測定できないCがあるためにViとVoを測定しただけでは簡単に調整できません。ですのであらかじめgが24.57倍になるように精密に調整しておくとその後が楽です。

g*CがわかればVoから減算することで欲しい値であるg*Viが得られるわけです。

このg*Cの決定方法ですが、ここではダミートリマ出力電圧とオペアンプ出力電圧をグラフ化し、それから線を引いて決定しました。面倒ならViを0Vにするという方法もあるかと思います。

世の中には入力オフセット電圧がとても小さいオペアンプがありますが、手元に無いからしょうがない。

あぁ、g*Cの決定前にやるべきことがありました。ダミートリマ出力電圧を変化させて、その変化量の1/10がオペアンプ出力に表れているか確認することです。これが表れていないようならトリマを再調整します。


オフセットといえばもうひとつ

C-MOS温度センサの出力もオフセットになります。データシートを見ると、0℃のときに600mVを出力します。オペアンプ出力に換算すると60mVですね。つまり、オペアンプの出力から60mVと上述したg*Cの値を減算すれば良いわけです。この回路では両方あわせて110mVとなりました。


そんなわけで完成

以上の調整が終わったらC-MOS温度センサを取り付け、K型熱電対、電池、テスタを取り付けて完成です。本当は本当の温度と出力値を合わせこむ「校正」という作業が必要ですが、この回路ではそこまでできません。まぁ遊びですしね。

簡単な動作確認をやってみました。C-MOS温度センサの出力電圧から換算すると気温は26.8度で、その時のオペアンプ出力は132mV、つまり22度を示しています。早速誤差がありますね。

そしてK型熱電対の先端を指で覆ってみたところ、オペアンプ出力は140mVになり、8度の上昇が観測できました。ということは指先の温度は26.8+8=34.8度となります。ほんとかどうかはわかりませんが、大体あたっていると思います。

続いてハンダゴテを当ててみます。数値はぐんぐん上がり、400mV以上になりました。温度に換算して290度程度です。ハンダゴテに貼られているシールに「注意: コテ先は300度以上」と書かれていますので、大体あたっていると思います。





また、ここにろうそくの炎の温度分布がありました。ためしに炎の先端をこの温度計で測定したところ、だいたい同じような値が出ました。実はこのような炎の温度を自分でも測定したくてなんとなくK型熱電対を買ったんですけどね。

もっと工作するとしたら、ADコンバータを搭載したPICなどを使って特性を補正できるようにして校正もちゃんとやるといったところでしょうか。とはいっても、100℃を超えるようなリファレンスとなる温度を作り出す方法ってどんなものがありますかね。まぁ100度以下の低温で市販されている温度計に合わせこむ程度ならできますかね。

そんなことを考えながら工作は終わりたいと思います。

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